下り松の戦いで、九死に一生を得た武蔵。ボロボロの体を、叡山の一寺に寄せていたが、例の子ども殺害で物言いが付き、明朝には寺を出て行くことに。その夜、お杉婆に命を狙われるが、どうしても憎めない武蔵は、一緒に瀬田方面へ下ることにする。牛を借りて、その背にお婆を乗せて歩いていたが、お婆は逃げてしまう。
それを黙認するように言われた女がいた。武蔵はそれにはふれず、お通への手紙をその女に託す。「こんどは自分が待っている」と。生きている喜びと、決戦の前に出会ったときのお通の印象が、武蔵をそうさせたのだった。
その女の家でひとやすみしていると、奥にいたのは、なんと又八。朱実とかけおちの途中、朱実がその家で、具合悪いのを装って逃げてしまっていた。そんな又八と武蔵は旧来の友。すぐに打ち解け、諭して、一緒に江戸へ出ようと誘い合う。しかし武蔵は、又八の母・お杉婆とすぐ前で別れたので、探してきっと得心させて来いといって、ここでは一旦別れることに。
そこで、さらに一眠りする武蔵。いつからか、外では職人たちが、下り松の武蔵の活躍話で盛り上がっている。そこへ反論する若者の声。佐々木小次郎だ。例の子ども殺害を引き合いに出して、卑怯だとののしる。しかし奥にいたのは武蔵。バツの悪い小次郎に武蔵は、仲介の件など、わざわざ慇懃に礼を言い、小次郎の言をしかと覚えておくと、行く末を暗示させる言葉の数々。
武蔵とお通と城太郎。折よく瀬田で落ち合い、あとは又八。と、武蔵は待っている。
その又八。なんと佐々木小次郎と出会い、つかまっていた。小次郎は、武蔵のひどさを口酸っぱく説いて、又八に「江戸へなどやめておけ」と引き止めるが、又八は武蔵を信じてそれを振り払う。
武蔵たちは先に立つことに。お通の乗った牛を、武蔵が引いて行く。やっと仲睦まじく歩く姿だった。それを追ってきた又八が目撃。嫉妬メラメラ。
木曽馬籠の女男滝での事件がキッカケで、武蔵とお通の歯車はまたくるいはじめる。
牛を城太郎に預けて、距離をとりながらの旅。そこへ現れた又八。牛もろともお通をさらってしまう。泣きながら追いかける城太郎。
武蔵は遠くで待っていたが、旅人たちの噂でお通が何者かに誘拐されたことを知る。探して駒ヶ岳の麓まで。牛を発見。そこは母ひとり息子の若者ひとりの百姓家。早合点した武蔵は奇しくも手痛い反撃に遭う。その家の息子・権之助は棒の達人だった。誤解とわかるとお通たちをいっしょに探してくれたのだけれど見つからない。それでもなんとか城太郎の足取りはつかむ。
武蔵は、この棒術使いとの奇縁を喜んだが、今度仕合ったら殺してしまうかもしれぬと、思いきわめ、そこを去り、城太郎を追って奈良井の大蔵宅へ。
大蔵は百草(薬草)を商う豪商。親切が取り柄と聞いた城太郎は、その噂を頼って行ったのだった。
一足違いで旅立った城太郎たちを追いかける武蔵。塩尻峠で先回りして待つことにしたのだが、いっこうに出会わない。出くわしたのはなんと、木曽の権之助母子だった。
木曽武士の末裔の名折れだと、老母が叱咤激励して、改めて仕合いを申し込みにきたのだ。そのひたむきさに真剣勝負を受けて立つ武蔵。
母の加勢もあって、勝負は引き分け。のちに権之助は夢想流を起ち上げたのだという。
そんな武蔵にひとりのファンが。彼は仙台伊達藩の石母田外記。諏訪湖畔で出会い仲良くなる。京からの帰り途中、武蔵を慕って偶然会えれば、と望んでいたという。その気があれば、仙台にと誘われたりする。
外記と別れた武蔵は、大蔵たちの足取りを追って和田峠を夜越え。途中の茶屋で、風呂敷から知らない小判が出てきてびっくりの武蔵。外記が有用な牢人を抱えようと、布石として偲ばせた黄金だった。茶屋で出会った山賊まがいがそれを狙っていたが、武蔵はそれに気づいている。しかしその中には、なんとあのお甲と蓄電した吉岡門弟の祇園藤次がいた。
お甲との再会を素直に喜び、酒を酌み交わす武蔵。しかしお甲と藤次は寝静まった武蔵を、小屋もろとも崖下に落としてしまう。仲間と武蔵をさがす藤次たち。しかし武蔵は見つからない。
その数日後、城太郎は奈良井大蔵と八王子に出ていた。そこで大蔵の真の正体を知ってしまう城太郎。それを逆手に取った大蔵は、城太郎に自分の養子にならないかと迫られていた。
いつしか一年と半年が過ぎて…。
朱実は流されるままに女郎屋の亭主に拾われ、葭原(吉原)の女郎に身をやつしていたが、小次郎の姿におののき、またも姿をくらましてしまう。
その小次郎も江戸に出ていた。何の奇縁か、お杉婆と浅草寺で出会う。婆は六方者(渡世人)の親分・片瓦弥次兵衛の厄介になっていた。
小次郎は小幡流軍学の門弟たちとイザコザが絶えない。
* * *
お通と武蔵。やっと打ち解け合ったと思ったのも束の間。男と女にはよくあるすれ違い。お通の悲願が叶っただけに、なんとも悲恋だとしか言いようがない。それにしてもすれ違いと奇縁の連続。中山道を越える道すがらの中でも、なんという出会いと別れだろうか。武蔵を中心とした人びとの、運命の流転に目を見張る思い。