ありゃりゃ!? もうTVドラマが始まってしまった。「まことに小さな国が、開化期を迎えている」
渡辺謙の、原作“まんま”の語りがいい。
今、原作を読んでいる自分にとっては、たまらない感覚だ。
ドラマの出だし。明治の日本が、明るく描かれている。
司馬史観は賛否両論あるらしいが、このドラマでの明るい日本の描き方。
はたして、善いのか悪いのか自分には分からない。
でもタイトル通り、若者が坂を昇っていく様子が、瑞々しく描かれていると思った。
* * *
子規が死んだ。このころ高浜虚子や河東碧梧桐など、門人たちが、かわるがわる看病をしていた。
生来のメモ魔だった子規。
臨終に際して、子規は死後のことも、細々指示を書き残している。
真之は、子規の死を、横須賀出張帰りの汽車のなかで知った。
隣りの乗客の新聞を見て初めて知ったのだ。
葬式には遅れて駆けつけた。
棺桶にペコリ。
怒ったような顔。無言。
棺桶は去ってゆく。
その場にひとり立ち尽くす真之。
怒ったような顔のまま焼香。
心のなかで「アシもそのうちそっちへ行くきに…」。
その言葉を念仏のように…。
三巻にしてひとり、主役がいなくなってしまった。
そりゃあ、ロシアになめられても仕様がない。
このころの日本は、工業国でもなんでもない。
少し前まで、“米”で生計を立てていた。
実際、国家予算は火の車どころの話じゃなかった。
なのに軍事費の比率は、年々上がっていって、明治30年頃には50%ぐらいになってたらしい。
今では考えられない比率だ。
しかし、当時は幕府が倒れただけで、国民の生活はほとんど代わり映えしていない。
国民からの非難は、ほとんどなし。サロンぐらい。
それでもこの“無茶”を断行するのは、至難の業だ。
海軍は軍艦を建造しまくった。
それを断行したのが山本権兵衛さん。
そのパトロンになったのが、西郷隆盛の弟・西郷従道。当時、彼は海軍大臣になっていた。
このふたりがいなければ、戦艦三笠はできていない。
さらに偶然は続く。
日英同盟は、ドイツの外交官の“ウソ”から始まった。
まさに“ひょうたんから駒”だな。
その成立に尽力したのが林董(ただす)という人だ。
もうひとり。恐露家の伊藤博文が、皮肉にもそれを加速させた。
そんななか、ロシアは日本を軍に招待する。
日本をビビらせるのが目的だ。
招待される代表として好古が選ばれる。
北清事変で各国が軍事介入し、各国が北京の駐屯地にいたころ、好古は人気者だった。
ここロシアでも、たちまち大人物と仰がれた。
ロシアでは、それこそ外交は険悪だが、個々人びとは清々しい。特に騎兵は気持ちがよかった。
豪快な性格が、功を奏し、かなりの情報を得て帰国する。
真之は、このころ結婚している。
そして参謀に昇格。
実質的に日本海軍は、真之の立てた作戦で動くことになる。
日本とロシアは、朝鮮と満州をボーダーラインに、交渉をはじめる。
ロシアはかなり強気だ。
「朝鮮の北半分もくれ」
これで日本は、窮鼠にならざるを得なくなった。
ロシアとの国交が断絶。
戦端を開いたのは、日本のほうだった。
ロシアは、日本から仕掛けてくることはありえないと信じていた。
砲声が聞こえても、何かの間違いだ、自国の演習だろうと思ったらしい。
東郷平八郎率いる連合艦隊は、大要塞と化した旅順に迫る。
ここで、真之が以前に詳しく観察した、米西戦争の閉塞作戦の案が採られる。
しかし旅順は、映画「レニングラード」に出てくるような、超巨大要塞化していたと思われる。
容易に近づけず、この作戦で、親友・広瀬武夫が亡くなってしまった。
そのころの陸軍の展開。
一方は、北朝鮮側から上陸し、満州を目指す。
もう一方は、遼東半島の中間を掃討し、小指の先の旅順要塞を孤立させ、北上。
上記の隊と合流して満州へ。
好古たちはここに上陸する。
彼の作り上げた騎兵隊が、本格的に始動。
しかし火力でおとり苦戦。
好古は茫洋としている。
ここで退けば、彼がつくり上げた騎兵隊の価値がなくなる。
前線まで出て、なんと、ふて寝。
旅順には、マカロフという将軍がやってくる。
それまでのロシア軍の士気が一変するほどの人気で、マカロフじいさんと呼ばれている。
戦術家の教祖みたいな人で、真之も彼の著書を愛読している。
穴のなかでじっとしていた熊が、活発に動き出した。
マカロフは機動的に動いた。
たまたま動きが一定なのに気がついた真之は、航路上に機雷を沈めることを思いつく。
気休めのような作戦だと思われた。
世の中なにが起こるかわからない。
偶然に偶然が重なって、マカロフが乗った旗艦は、その機雷によってあっという間に沈んでしまった。
その敵将の呪いなのか。
日本側も同じ手で、旗艦クラスの大鑑を2隻も失う。
巡回は、2チーム交代で行われていた。
撃沈されたのは、東郷旗艦“三笠”の組ではなかった。
東郷は運がいい。
だから、連合艦隊の大将になった、とも言える。
* * *
三巻にして子規が死に、日露戦争に突入してしまった。難しい話の連続で、読むのが遅くなってしまう。
あちこちで、名著と言われる本書。
けれど、これからずっと戦争の話が続くと思うと、正直ちとつらい…。
単純に日本軍の活躍を喜べない。
そのカゲには、たくさんの“死”があるからだ。
好古兄さんのように“単純明快”でいることが、軍人には必要なようだ。
読み進めるうえで、この本の“本質”がなんなのか、見極められれば御の字か…。