2009年12月7日月曜日

坂の上の雲(三)

 ありゃりゃ!? もうTVドラマが始まってしまった。
「まことに小さな国が、開化期を迎えている」
 渡辺謙の、原作“まんま”の語りがいい。
 今、原作を読んでいる自分にとっては、たまらない感覚だ。
 ドラマの出だし。明治の日本が、明るく描かれている。
 司馬史観は賛否両論あるらしいが、このドラマでの明るい日本の描き方。
 はたして、善いのか悪いのか自分には分からない。
 でもタイトル通り、若者が坂を昇っていく様子が、瑞々しく描かれていると思った。
*  *  *
 子規が死んだ。
 このころ高浜虚子や河東碧梧桐など、門人たちが、かわるがわる看病をしていた。
 生来のメモ魔だった子規。
 臨終に際して、子規は死後のことも、細々指示を書き残している。
 真之は、子規の死を、横須賀出張帰りの汽車のなかで知った。
 隣りの乗客の新聞を見て初めて知ったのだ。
 葬式には遅れて駆けつけた。
 棺桶にペコリ。
 怒ったような顔。無言。
 棺桶は去ってゆく。
 その場にひとり立ち尽くす真之。
 怒ったような顔のまま焼香。
 心のなかで「アシもそのうちそっちへ行くきに…」。
 その言葉を念仏のように…。

 三巻にしてひとり、主役がいなくなってしまった。

 そりゃあ、ロシアになめられても仕様がない。
 このころの日本は、工業国でもなんでもない。
 少し前まで、“米”で生計を立てていた。
 実際、国家予算は火の車どころの話じゃなかった。
 なのに軍事費の比率は、年々上がっていって、明治30年頃には50%ぐらいになってたらしい。
 今では考えられない比率だ。
 しかし、当時は幕府が倒れただけで、国民の生活はほとんど代わり映えしていない。
 国民からの非難は、ほとんどなし。サロンぐらい。
 それでもこの“無茶”を断行するのは、至難の業だ。
 海軍は軍艦を建造しまくった。
 それを断行したのが山本権兵衛さん。
 そのパトロンになったのが、西郷隆盛の弟・西郷従道。当時、彼は海軍大臣になっていた。
 このふたりがいなければ、戦艦三笠はできていない。

 さらに偶然は続く。
 日英同盟は、ドイツの外交官の“ウソ”から始まった。
 まさに“ひょうたんから駒”だな。
 その成立に尽力したのが林董(ただす)という人だ。
 もうひとり。恐露家の伊藤博文が、皮肉にもそれを加速させた。

 そんななか、ロシアは日本を軍に招待する。
 日本をビビらせるのが目的だ。
 招待される代表として好古が選ばれる。
 北清事変で各国が軍事介入し、各国が北京の駐屯地にいたころ、好古は人気者だった。
 ここロシアでも、たちまち大人物と仰がれた。
 ロシアでは、それこそ外交は険悪だが、個々人びとは清々しい。特に騎兵は気持ちがよかった。
 豪快な性格が、功を奏し、かなりの情報を得て帰国する。

 真之は、このころ結婚している。
 そして参謀に昇格。
 実質的に日本海軍は、真之の立てた作戦で動くことになる。

 日本とロシアは、朝鮮と満州をボーダーラインに、交渉をはじめる。
 ロシアはかなり強気だ。
「朝鮮の北半分もくれ」
 これで日本は、窮鼠にならざるを得なくなった。

 ロシアとの国交が断絶。
 戦端を開いたのは、日本のほうだった。
 ロシアは、日本から仕掛けてくることはありえないと信じていた。
 砲声が聞こえても、何かの間違いだ、自国の演習だろうと思ったらしい。

 東郷平八郎率いる連合艦隊は、大要塞と化した旅順に迫る。
 ここで、真之が以前に詳しく観察した、米西戦争の閉塞作戦の案が採られる。
 しかし旅順は、映画「レニングラード」に出てくるような、超巨大要塞化していたと思われる。
 容易に近づけず、この作戦で、親友・広瀬武夫が亡くなってしまった。

 そのころの陸軍の展開。
 一方は、北朝鮮側から上陸し、満州を目指す。

 もう一方は、遼東半島の中間を掃討し、小指の先の旅順要塞を孤立させ、北上。
 上記の隊と合流して満州へ。
 好古たちはここに上陸する。
 彼の作り上げた騎兵隊が、本格的に始動。
 しかし火力でおとり苦戦。
 好古は茫洋としている。
 ここで退けば、彼がつくり上げた騎兵隊の価値がなくなる。
 前線まで出て、なんと、ふて寝。

 旅順には、マカロフという将軍がやってくる。
 それまでのロシア軍の士気が一変するほどの人気で、マカロフじいさんと呼ばれている。
 戦術家の教祖みたいな人で、真之も彼の著書を愛読している。
 穴のなかでじっとしていた熊が、活発に動き出した。
 マカロフは機動的に動いた。
 たまたま動きが一定なのに気がついた真之は、航路上に機雷を沈めることを思いつく。
 気休めのような作戦だと思われた。
 世の中なにが起こるかわからない。
 偶然に偶然が重なって、マカロフが乗った旗艦は、その機雷によってあっという間に沈んでしまった。

 その敵将の呪いなのか。
 日本側も同じ手で、旗艦クラスの大鑑を2隻も失う。
 巡回は、2チーム交代で行われていた。
 撃沈されたのは、東郷旗艦“三笠”の組ではなかった。
 東郷は運がいい。
 だから、連合艦隊の大将になった、とも言える。
*  *  *
 三巻にして子規が死に、日露戦争に突入してしまった。
 難しい話の連続で、読むのが遅くなってしまう。

 あちこちで、名著と言われる本書。
 けれど、これからずっと戦争の話が続くと思うと、正直ちとつらい…。
 単純に日本軍の活躍を喜べない。
 そのカゲには、たくさんの“死”があるからだ。
 好古兄さんのように“単純明快”でいることが、軍人には必要なようだ。
 読み進めるうえで、この本の“本質”がなんなのか、見極められれば御の字か…。