楠木勢は官軍の盾となって壮絶な最期をとげる。最期の最期まで、正成の慈愛に満ちた行動は胸に迫る。
結局、彼が後醍醐に諫奏した通り、宮方は比叡山に落ちのびることになる。今ごろ逃げても状態が好転するわけもなく、ずるずると戦争は長引くばかり。足利方も焦った。名目上は和睦という形で後醍醐天皇の還幸を促す。
後醍醐天皇はいったんは降ったが、やっぱりこの人は、大人しくなるような人じゃない。どうしても自分で国の経営をしたのかったのだろうね。奈良吉野に逃げ てしまった。ここに至って南朝を開いてしまったわけだ。ここからだ。南北朝時代ってのが始まるのは。この朝廷分裂、50年も続いたらしい。なんか煮え切ら ない混沌とした時代。一方の室町幕府が、善政したかといえば、そうでもない。けっこう好き勝手やってたようでひどいものだ。
尊氏と後醍醐天皇。ふたりが組んでいれば、もしかするといい国づくりが出来ていたのかもしれない。それをさせようとしていたのは、亡き楠木正成だった。
どうも作者は、正成の死後にあまり興味がなかったのか、ここから尊氏が死ぬまでを、この巻で終わらせてしまっている。例の皇国史観やらがジャマをしているのか、はたまた、この時代のあまりな惨状に嫌気が差したのか…。
とにかく、この後の尊氏の周辺は、目を覆うばかりの惨劇が続く。この50年で戦国時代を凌ぐ下克上の嵐! カオスですよカオス! 裏切り裏切られ、昨日の 友は今日の敵。今日の敵は明日の友…。とどのつまりは、弟の直義をさえ手にかけてしまった…。どうしちゃったのさ!尊氏さん! 権力とはそこまで人を狂わす のか!?
北条高時、大塔ノ宮、楠木正成、新田義貞、後醍醐天皇、北畠顕家、高ノ師直、そして弟の直義。彼らが尊氏に憑いたとしか思えない。そんな尊氏にも最後が。危篤の床でうめいた「河内殿!」。三途の手前で正成と語らったのか…。
思えば北条の世を憂いて起った尊氏だったが、権力の魔物に取り憑かれ、最期はグダグダ。悲しき英雄譚であった。