2009年8月24日月曜日

その男(一)

 池波正太郎が著した幕末もの。無名の剣客、杉虎之助の物語。
 虎之助は幼少の頃から病弱だった。継母にいじめられ、十三のとき、我が身の不幸を呪って身投げしたところを、池本茂兵衛に助けられ、その縁から剣の道を志し茂兵衛についてゆく。
 六年の月日が過ぎ、虎之助は見違えるほどたくましい男に生まれ変わっていた。
 ひょんなことから叔父を助け消息が知れるが、茂兵衛の頼みで、礼子というわけありの女を、彦根城下まで送り届けることに。その道中、薩摩なまりの侍と乱闘になるも、そんじょそこらの剣客に負ける虎之助ではなかった。
 そんなこんなで、師匠の秘密が気になりだした虎之助だが、ここで師匠に絶縁されてしまう。
 言いつけを守り江戸で暮らす虎之助。剣客、伊庭八郎と出会い親交を深める。労咳を患う彼から、友好の印として“心形刀流”を授かる。
 ある日、世話人から礼子を見かけたという話を聞く。彼女が旅装で品川宿を後にしたというのだ。その先に恩師、池本茂兵衛の影を見た虎之助は礼子を追う。出発の日、またも例の薩摩武士をみかけた虎之助は、いそぎ東海道を京へ。御油宿の宿屋ではち合わせた三組。またもヒゲ面の武士をやりすごした虎之助だったが、京へのぼっても、礼子どころか茂兵衛にも会えない虎之助は、悶々と京で過ごす。
 天下はますますもって幕末。京にも不穏な空気が漂いはじめ、とうとう師匠の秘密を知った虎之助。池本茂兵衛は幕府の隠密だった。恩師とともに働きたいと思う虎之助だが、茂兵衛は「礼子を探し連れ出して、江戸で幸せに暮らせ」という。

 ひょろひょろだった虎之助が、見違えるように逞しくなって帰ってくるクダリが痛快。そのときの叔父さんとのやりとりがまた楽しい。伊庭八郎や、後半登場する中村半次郎との親交も気になるぜ。