長野のおじいさん(故人)の家は、いま、おばさんが住んでいる。お盆のお墓参りに本棚を漁っていると、山本周五郎がたくさんあり、そのななかから拝借したのがこの本。保本登は、長崎へ蘭学を三年間遊学し、“わけあって”小石川養生所に赴任させられる。その“わけあり”のこともあって、最初は赤ひげたちと衝突するが、ある事件をきっかけに心を氷解していく。
江戸の底辺の人びとの暮らしを細かく活写しており、登の視点がそのまま自分の視点となって、文章がとてもよく“見える”。
今放映されている医療ドラマや、新しい医療小説も、元を辿ればこの本に通じるのだろうか。倫理観は今も昔も変わってはいない。言うまでもなく医療小説の古典であろう。
新出去定(赤ひげ)が「…誰が悪いのでもない、人間は美しくもあるが、汚く卑しくもある」「…貧困と無知を改善しない限り病気はなくならないだろう」「…おれたちは患者の生命力の手助けをするだけだ」という言葉などに、深い葛藤とそれまでの苦闘がうかがいしれる。
「赤ひげ」といえば、黒澤明監督の映画を思い浮かべるだろうけれど、恥ずかしいことに、まだ映画を観たことがない。
これは観なければいかん、と、猛省させられた。